読書感想文-又吉直樹「劇場」

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「明日、新潮を買おう」

そう決意して、発売日前日まで楽しみにしていたのに

前日の取材疲れと娘の卒業式でバタバタしていて

当日はすっかり忘れてしまい、発売日翌日になって

慌てて書店巡りをして、某ヴィレバンに1冊だけポツンと置いてあるのを

見つけたときには「ジーザス」と呟きそうな心地でした。

 
 すぐに読まなかった「火花」

以前から個人的に芸人として好きだった又吉さん。

「火花」が出版されたときは「おぉ!」とテンションが上がったものの

何となく(いつでも読めるかな)と思い、すぐには買わないでいました。

前評判も聞いていたので、読む前から絶対に面白いのだろう、と思っていたし

楽しみは後に取っておく的に焦らしていたというか、温めていたというか。

そうしたら今年に入って、又吉さんの次作「劇場」が近く発表されると聞き

スターウォーズの新作を観る為に前のシリーズを観るような感覚で

急いで「火花」を買いに走り、短編だったこともあり

まずは「火花」をぐーっと一気に読みました。

 

なので、以下は「劇場を読んだ感想」でもあり

「火花を読んだ人が劇場を読んだ感想」でもあります。

 

「劇場」が恋愛小説なら、読むしかないだろう

「火花」を読み終えた後に

「劇場」が恋愛小説だと知ったとき

シンプルに「読んでみたい」と強く思いました。

 

「火花」の感想について、ここで詳しくは語りませんが

ストイックで緻密で繊細で

触れたら本当に、熱くて痛い火花が散りそうな世界で

(あの雰囲気で恋愛小説が書かれたら、どんな世界になるんだろう)

という期待感に私の丸い小鼻は膨らみ

「これは読むしかないだろう。よし、明日、新潮を買おう」

と決めたわけです。

 

忙しくて読めない「劇場」

せっかく発売日の翌日には手に入れていた新潮なのに

実はその後、数か月ほども読まないでいました。

これは別に焦らしていたからではなく、

単純に2月後半辺りから急に仕事が忙しくなって

なかなか読書に割ける時間が取れず、

仕事用の大きな鞄に買ったばかりの新潮を突っ込んだまま

2週間くらいそのままにしていたら

そのまま忘れてしまいまして。

 

読みだしたらあっという間だった

少し話が逸れますけど、最近デーツにハマっていまして。

近所にある業務スーパーに乾燥デーツが格安で売っているんです。

それにハマって、嬉々としてガンガンデーツを噛んでいたら

歯のブリッジが外れてしまいまして。

それで焦って歯医者を予約して、

出かける際に小さなバッグに変えようと仕事用の鞄を開いたら

はい出てきましたよ、すっかり忘れてた新潮が。

そうやこれ読まなあかんやんと。

仕事も落ち着いてて、ちょうどいいタイミングだったと思います。

 

その後は歯医者へ行くまでの電車の中で

院内の待合室で

帰りの電車で

帰ってきてベッドに寝転んで

その日一日使って、あっという間に読み切りました。

 

とにかく沙紀ちゃんがかわいい

劇場の登場人物は主人公の永田も含めて、ほとんど皆尖っていて

個人的にはあんまり友達になりたくないな、

でも、もし自分にだけ心を開いてくれるなら

仲良くなってもいいかな、と思わせる人が多いのですが、

その中にあって、まるで自己主張しないカスミソウのように

若しくは寂れた砂浜の中の貝殻のように、

陳腐な例えだけど、それくらい全力で人を威圧しない

清涼な輝きを放っている沙紀ちゃんが本当にかわいくて。

たぶん又吉さんもこの子を書きたかったんじゃないかなと思うくらい

ちょっと現実にはいないくらい良い子で。

沙紀ちゃんに会うだけでも「劇場」を読む価値があると

私は思っています。

 

大人でもピュアに泣ける小説

ピュアに泣ける恋愛小説って、ラノベ的なものが多くて

大人になると

「ああ、若いなぁ」

「あったなぁこんな頃」

という思いが勝ってしまい

感情移入より懐かしさが勝ってしまったりするんです。

 

かといって濃厚な恋愛描写たっぷりの、大人のねっとり感出まくりの小説が

読みたいわけでもない。

「劇場」は丁度そんな私の気持ちにフィットしていて

潔くピュアにせつなくなることができました。

 

 

2人がああなるまでには、もっと違う道を選べる瞬間が

いくつもあったはずなのに、

不器用で不完全で純粋で中途半端で優しくて、

それが大人になってもなお

ちょうど克服できていない部分とリンクして

いちいち泣けてしまいます。

 

映像化が待たれる作品

 

原付に乗った永田が何度も沙紀ちゃんを無視するところや、

メンバーに文豪の名前を付けたチームでサッカーゲームに興じるシーン

そしてラストまで、脳裏に鮮やかに浮かぶ場面の数々。

 

 

きっと「劇場」もいつか映像化されるんじゃないかな。

沙紀ちゃん役は誰だろう、本田翼ちゃんとか。

永田役はサカケンだったら男前過ぎか。

病んでる役の上手な染谷将太くんとかもよさそう等と

今から想像を逞しくしています。

 

きっと次作も出るし、きっと買う

1つ惜しいとすれば、心に残る本に出会った時には

文中にあるたった1行が琴線に触れて

しばらく本を伏せたまま、それ以上読み進められなくなる

みたいなことが必ずあるのですが

今回そういうことはなかったです。

なかったんですけど、これだけ書ききれる又吉さんは

充分素晴らしい作家さんだし

きっと次作も出されることでしょう。

 

そして私はたぶん、次作も必ず買います。

発売されてもしばらく買わなかったり

自分の未熟な部分を疼かせたりしながら

小鼻を膨らませて、きっと買いに走るでしょう。

 

そうしたら、私の本棚にある

同じ著者が書いた複数の本が並ぶコーナーに

新しく「又吉直樹」のスペースを

そっと追加しようと思っています。